火崎勇/甘い罠

大手通販会社の開発部に勤める美山和巳は、二つの悩みを抱えていた。一つは突然人事部に異動になり、リストラのための内偵調査の指令を受けたこと。そしてもう一つは、外注デザイナーの灰原駒に“恋人”を前提としたお付き合いを申し込まれたこと。生真面目な美山としては、明るく人懐こい灰原を憎からず思ってはいたが、だからといってそう簡単に恋人として受け入れられるはずもなく、結局は微妙な友人関係を続けていた。だが、リストラ内偵の件で起こったある事件をきっかけに変化が起こり―――。

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ショコラノベルス : 2004年08月  あじみね朔生 ISBN:477810028X

 

★5<通販会社の開発部の人間と、外注デザイナーとして出会った美山と灰原。
同い年なのに子供のようにくったくのない笑顔を見せる灰原から告白された美山は、戸惑いながら仕事上のつきあいを保っていたが、社内の人事異動で仕事でのストレスが溜まるようになったとき、灰原の明るさに救われるようになる。

前半は美山がリストラ内偵をすることになり日々疲弊していく、という話としても興味をそそられる中、最初は真面目な美山のほうが年上のように、子供のような灰原をあしらっている、という感じだったのに、灰原を知っていくうちに、実は灰原はとても大人の気遣いと余裕を持っている人間だということに気付いていく展開もよかった。

後半はつきあうようになってからの二人の話になるのだけれど、知れば知るほど灰原は大物であることがわかり、少し男として引け目を感じる美山が、なかなか素直になれず、自分でも苛々してしまうところや、前半同様身に危険が迫ることからの緊迫感も味わえる中、開き直った美山が我知らずうちに灰原を慌てさせるような台詞をケロリと言ってのけたりするところも楽しめた。

いつも火崎さんの作品は恋愛以外の話しもすごくおもしろく描かれているけれど、たまに恋愛話よりそれ以外の話しのほうがメインになり過ぎてしまっているかな、と思えることがあったものの、今回は恋愛以外の話もおもしろく読めつつ、恋愛部分もちょうどよく絡んでいてよかったと思えた。

真面目な美山が主導権を握りそうなのに、案外いいように灰原の我儘をかなえさせられてしまうような、押し切られるような、でもやっぱり自分の意思で許してやるのだと、我儘を受け入れているのだ、という態度が男らしいような、おもしろいキャラだったし、灰原も好きな人を純粋に慕う子供のような、無邪気な笑顔を見せ、ちょっと感覚にズレのあるアーティストらしい人間のように思えたのに、実は上手に甘えながら、反面灰原を優しく甘やかせもしながら、牙を隠した肉食獣のような面があるのもよかった。