火崎 勇/羨望と恋


 

★5(-)<今回は(受)視点メイン。(後日談的なお話は(攻)視点)
厳格な家に育ち、逃げ場もなく、ただ口答えすることなく「はい」と言っていればいいのだと教え込まれ、従順にそれを守ることしかできずに育った国生。
就職し、やっと古い家から出られたと思っても、身についた習慣は職場での人間関係にも響き、委縮し、なかなか思うようにはいかない。
そんなとき隣に越してきた年上の男・三木に事情を聞いてもらう機会ができ、その後も何くれとなく相談し勇気づけてもらうように…。

頑張ろうとしている国生に、優しいだけじゃない、時に耳に痛いことも言いながらも、国生が強くなれるように助言していく三木。
恋愛感情は三木からの言葉で初めて国生は意識する展開。

周囲を苛つかせないようにしたいのにどうしてもうまくいかない。
頑張っていてもうまく受け止められなかったり、不憫なおぼっちゃん国生が一喜一憂する姿には好感がもてて、もちろん三木もいい男でした。

ただ読み終わってみると少しだけ何か物足りないというか、何かもうちょっとあったらもっとよかったのに、という感じ。
国生の事情はいろいろあったので国生のほうより多分三木のほう。
三木も三木視点で読むと本編より断然おもしろくてよかったのですけれど、それが本編でもうちょっとあったら言うことなし、だったのかも。

もしかしたら三木が優しすぎて、こんなに優しくするのは下心があるか家族だよな(笑)、と思えるほど隣人にしては不自然なほど優しい。
そのあたりが微妙にひっかかったのかも。
最初のやりとりだけでも国生の育ちのよさはわかるし、それに好感を持つのはわかるし、だから力になりたいと三木が思う展開に不自然さはない。
そう一気に読めればよかったのかもしれないけれど、もしかしたら兄かも、と思いながら読んだから集中できなかったのかな?
でもおおむね満足でした。

火崎 勇/至高の華

『ただ愛しさだけで、お前が俺を捕らえてしまった。

もう何も考えられないほど、どこにも行けないほど。』


 

ショコラノベルス : 2007.3
 
 
★4.5(-)<いきなり大事にしていた花を手折ることから始まる物語。
火崎さんにしては珍しいかな、とは思いつつ、多分火崎さんのお話なので、ただ自分の身勝手な気持ちからやっているわけではないのだろう、何か事情があるのだろうと思ったらやっぱりその通りで少し安堵。

でもその理由は辛く、前半のお話ではその理由を知らされない花である佳哉も辛いけれど、隠している土佐も、そして隠さねばならない津島も、本当にそれぞれが痛々しくせつない。

後半のお話は、土佐に辛いことが折り重なり、精神的に疲弊していく中で、それでも弱音を吐くことなく過ごしていく土佐自身がどれほど弱っていたのかを、佳哉が気づかせてくれる、というもの。
年上である自分が、佳哉を守らねば、悲しませるようなことをしてはいけないのだ、と自分を追い詰める土佐が、そうじゃなくていいのだと、佳哉に教えられる。

二人の立場が逆転したように見える展開もおもしろかったのですが、弱った土佐が甘やかそうとしてくれる佳哉に、今まで我慢していた本音をやっと口に出来てよかったなぁと思える反面、甘やかそうとしてくれるのをいいことに、土佐の大人のズルさみたいなものが見え隠れしたのはご愛嬌?(笑)