火崎勇/恋人のスタンス

エクリプスロマンス 2001.9 桜城やや ISBN:4756714366

・あらすじ・

突然別れなければならなかった雪の日、親友だと思っていた少年からもらった、ラブレター。寂しさと驚きで返事が出せなかったことを大人になっても忘れられない吾妻は、編集者として取材した新鋭イラストレーター桜井に、その少年の面影をみつけて...。純粋なだけではいられない―――。オトナになった少年達の付き合い方は? 遠距離恋愛を描いた続編を加え、アダルト・ラブが遂に登場!

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・レビュー・

★4.5<雑誌掲載分の前半と書き下ろしの後半のお話し、2部作モノ。


前半のお話しでは

イラストレーターの桜井と少年時代に親友だった桜井が

同一人物であるかどうか、という吾妻の疑問が

どう明らかになるかというお話しの楽しみがあるので

ネタばれは後にして、

 

後半、遠距離恋愛をする二人のお話しを先にすると、

確かに恋愛って、こういう擦れ違いや誤解ってあるよなぁと

思わず頷いてしまうような、

それでいてどの本でもよく見かける擦れ違い方じゃない、

些細といえば些細だけれど、

恋愛中にはそういう些細なことの積み重ねが

どんどん大きな擦れ違いになってしまう、

 

というような、リアルなんだけど

ナチュラルな恋愛模様が描かれているお話し。

 

例えば少し▼ネタばれになりますが▼

二人の逢瀬は吾妻が有休1日と週末を合わせて

二泊三日で北海道に行くパターン。


旅費は吾妻の自腹だし、別に自分より給料のいい桜井に

出して欲しいというわけでもない。


でもそうそう会えないことに桜井が文句を言うのに、

思わず言ってしまいそうになるのは、お前が会いに来い、という言葉。

だけどそれは口にしない。


お互いに仕事があるし、

桜井の仕事から北海道のアトリエから出て会いに来るのは

容易ではないことを吾妻は理解しているから。


でもじゃあ、何故吾妻は苦しいのか。


それは桜井が、

そこまで吾妻が考えていることに気づいていないから。


高くない給料から旅費を出し、

たった1日の有休を取るのに上司に嫌味を言われ、

休日を家で休息に使うことなく飛行機に飛び乗る。


そこまでしたいほど逢いたいと思う気持ちが吾妻にあることに、

桜井は気づいていないから。


桜井の方からも会いに来て欲しいと言いたい気持ちはあるのに

それを抑えて桜井を気遣うほど桜井を大事に思っている

吾妻の気持ちに桜井が気づいていないことが悲しくて苦しい。


それは第三者から見れば、

気づいていないなら自己申告してしまえばいいと

簡単に答えの出ることでも、

恋愛の渦中にいる二人には容易に出せない答え。

 

そんな二人のやりとりが、もどかしくせつなく、

吾妻が桜井にやっと本心を言葉で伝える場面での桜井が、

ただ吾妻の言葉に「ごめん」を繰り返すシーンもよかった。
ということで私の好き度は★4.5 


ただ私の好きな話しかというと、

ちょっとそこから微妙にズレていて、

上手という意味では好きな話しだけれど

好きな恋愛モノかといえばちと違う4.5ポイント。

 

結局ラストも隣に聞えたら困るから

えっちはしないと言う吾妻の言葉を無視して最後までしてしまう桜井。


そこには吾妻とちゃんと防音のきくマンションで

一緒に暮らそうという意図はあるものの、

私的には好きにはなれない強引さだったり、

 

最初のお話しで、イラストレーターの桜井が

親友だった桜井と同一人物かどうか、

という話し的にはおもしろかったし、

 

最初桜井が死んでしまったという話しを聞いたときの

吾妻の後悔は本当にせつなかったし、

桜井から嘘をつかれたのが

自分の親友だった桜井に対する気持ちを

気持ち悪がられた拒絶からだと思ったときの吾妻も痛々しかった。

 

ただそういうせつないシーンが連続して出てくるのは

お上手でよかったけれど、

やっぱり雑誌掲載分のせいかテンポが早すぎて、

二人が気持ちを通じ合わせる場面も

少しいつもの私の好きな火崎さんの作品と比べるとバタバタとした印象。

 

あと、小学生の頃からオトナの恋を始めるほど好きだったというのは、

まあありえなくはないのだろうけど、でもやっぱりどうなのかなぁと。


相手が女の子ならまだしも、

桜井は小学生の頃から連絡のつかなくなった相手を

ずっと26歳まで引きずっていた、らしいので、

すごく引っかかるわけでもないけど、

ちょっと気にはなるといえば気になる設定でした。