火崎勇/ただ一人の男

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ただ一人の男 (CHOCOLAT BUNKO) [ 火崎勇 ]
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亜樹良のりかず/ショコラノベルズ 2005/8 isbn:477810143X

 

★5<火崎さんの作品は好きな作品が多いものの、たまにちょっと凝った設定のものもあって。
中には恋愛色よりそちらの設定がメインになり過ぎてしまっていて、私の好みのお話とはちょっと違うと感じるお話もあったので、今回のお話はあらすじを読んだところ、その凝った設定のほうのお話のようで、どうかな、と思いましたが、結果はその設定がメインになり過ぎず、設定が恋愛感情とうまく絡んで、本当にせつない気持ちになるお話しになっていて大満足させていただきました。

幼い頃の身に振りかかった不幸な出来事のせいで、周囲の人間に対して人形を見るようにしか感情を持てなくなってしまっていた如月。
その出来事を夢で見るときには尋常でないぐらい体温が下がったりもしたけれど、それでもなんとか淡々と毎日をやり過ごしていた。

そんなとき働いていたバーの客として来ていた尾崎に、どうも気に入られたのか、ひょんなことから尾崎の家に居候することになる。
互いに恋愛感情も肉体関係も存在しない同居に、周囲は首をかしげたり邪推をしたりしたけれど、それでも別に如月のとっては何の感情もわかないこと。
ただ夢を見たとき、何故か尾崎の腕の中ならシャワーをしばらく浴びるより早く体温を取り戻すことが出来る、それだけだったはず…だったのだけれど。

ある出来事をきっかけに、今まで周囲の誰一人として何とも思うことのなかった如月が、尾崎だけを「人」として意識してしまうようになる。
そこからが本当にせつないお話になってくる。
尾崎の存在だけが如月の感情を揺さぶり、失いたくないのだと切望させる。
尾崎の優しさを今までのように平気で受け止められなくなってきているのに、それでも意識してしまっている自分を押し隠し、平静を装おうとする。
尾崎は何も変わっていないのに、自分だけが変わってしまったことに戸惑い、そして自分は尾崎にとって何ら特別な存在でもなければ、優しくしてくれるのはただ如月の境遇を可哀相に思ってのことだけなのだと思い知らされ絶望する。

後半、だんだん尾崎のほうの気持ちが見え隠れするようになってからは、二人が互いの気持ちを探り合いつつ、どんどん間違った方向に遠回りしてしまう様子はせつないし、また気持ちが通じ合ってから互いの熱を分かち合うシーンの中では、豪胆なところのある尾崎が、それでも如月を気遣って我慢したり、また如月がそれに気付いて、自分の身体のことは二の次に、とにかくこの男を楽にしてやりたいと思うところに、改めて尾崎への愛しさを強く思ったり、最後はその如月が大胆に可愛いことを言ったりして、もうメロメロにさせられました。(笑)

また全体的にも最後の最後でのシーンでもわかるように、尾崎ってば案外乙女なのね、ということが改めてわかって、可愛い人だなぁと思えたし、もどかしい二人の間で手を貸してくれた篠塚の存在も、わりと重い設定の部分もあった中で、なごめる存在になっていたと思う。
あと二人のその後について語られたあとがきも楽しめてよかった。