火崎 勇/恋の眠る夜


 

麻生海 : 笠倉出版社  CROSS NOVELS  : 2008.3 
ISBN : 4773006005

 

★4.5<大学時代に知り合って、その後社会人になっても一年ほどは恋人として同棲していた男・松平紅也との手酷い別れから十数年。
心の痛みを引きずりながらも念願だった小説家として忙しい日々を送っていた北園貴文は、出版社の社長になった紅也と再会してしまう。
忘れたい過去に触れられることを恐れた貴文は、紅也を避けるが…。

自分は裏切られていたのだと知らされ、紅也の前から逃げ出した貴文の傷は年月を経ても深いままで痛々しい。
紅也のほうは何とか貴文と話をしたいと言い追いかけるぐらいなので、何か二人の間で誤解があったのかなとは読んでいて感じるものの、紅也の兄との確執やら会社の権利やらが絡みすんなりと二人の糸はほどけなくてもどかしいお話。

設定としてはどちらも同じ想いなのに誤解してすれ違うという好きなパターンなのですが、今回は紅也の兄はいい人なのか悪い人なのか、誰が嘘をついているのか、誰の差し金なのか、という部分にハラハラさせられ、恋愛話を堪能した、というより疑心暗鬼になって読んだ部分のほうが多かった気がして個人的には好き度は少し低めに。

今回印象に残ったのは下記の言葉。
▼ネタばれ▼になりますが、
「お前が俺から去ったんだ。お前が自分で戻って来い」
裏切られたと思って逃げるしかなかった貴文も辛かったけれど、突然わけもわからず恋人に逃げられた紅也の辛かった気持ちがすごくよく表れているかな、と思えた。