人気作家の石坂はバツイチだが、郊外の一軒家で、平穏で気ままなひとり暮らしをしていた。自宅周辺をうろついている不振人物に気づいた石坂がストーカーかと思った相手は18歳の少年で千野茅と名乗った。彼は母の遺言で若林という恩人に会うため、田舎から出てきたと説明する。若林は昔、その家に住んでいたが、石坂が住むずっと前に引越してしまい、今は消息不明になっていた。純朴で働き者の茅を気に入った石坂は、茅を住み込みのバイトとして雇い、人捜しを手伝おうとするのだが、彼が本当に捜し求めていたものとは・・・。
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ジーンノベルズ 2002 5 ふさ十次 ISBN:9784434020025
★4.5<作家として、そこそこ人気を得、結婚していたことさえあった石坂だが、結婚相手は仕事を捨てられず、家にいる間は、石坂を干渉し、家にいないときは外を仕事で飛びまわっており、石坂の望む「家庭」を築くことは出来ずに離婚していた。
〆切に追われながら仕事をし、それがひと段落すればパチンコをしたり、気の向くままに過ごす、そんな独りの日常に慣れてしまっていた石坂だったが、そこへ、茅と名乗る、今どきの18歳らしからぬ、礼儀をわきまえ、真面目な、青年を居候させることになってから、石坂は茅の言動を、いつしか短い間共に暮らしていた元妻との暮らしと比べるようになっていた。
人捜しをする茅の、どこか謎めいたところは、話としておもしろく、石坂の一人称で進められるストーリーは、三十男の語りらしく、ほどほどに親父くさくもあり、その三十男が18の茅に恋愛感情を意識して慌て、煮詰まっていくあたり、また、三十男として、もっと茅を慮るかと思えば、案外我が儘なところを見せ、▼ネタばれ▼になりますが「頼むから」と、自分を選んでほしいと請うあたりにも好感が持て、最後には「幸せ」というモチーフが石坂を含めた登場キャラのみんなに、上手に絡んでいくあたりも、さすが、と思えた。
ただ、なかなかよかったけれど、最後、ちょっと茅が石坂を受け入れる際、茅は本当に石坂を恋愛感情で好きなのか、単に自分の居場所を作ってくれたことが嬉しいからだけじゃないのか、そこらへんが、石坂の一人称の語りのせいで、それまでの茅から少しも石坂を意識していたように伺えないためか、いま少し納得出来るような、出来ないような微妙な感じに受け取れた。
恋愛モノとしては、ちょっと★4と迷うところかな、と思うけれど、うまく登場脇キャラまでもを「幸せ」というモチーフに繋げていったストーリー展開と、茅の謎めいた話としておもしろく読めたので★4.5に。