火崎 勇/世界を壊しても
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志十獄: 心交社 ショコラノベルス : 2008.4
ISBN : 978-4-7781-0552-5
★4.5(-)<学生時代、強い個性を持つ男鹿に憧れ、役に立つのが嬉しくてせっせと男鹿の呼び出しに応じるうち、身体も求められ、雲居は男鹿が自分の恋人だと思っていたが、あるとき男鹿からあっさり別れを告げられ、自分が恋人でもなんでもなかったことを知らされてしまう。
深く傷つき、7年もの間、男鹿とは違い、優しく自分を愛してくれる男とだけつきあっていた雲居だったが、仕事で訪れた訪問先の会社で、社長として男鹿と再会してしまう。
昔の自分とは違うのだと男鹿に思い知らせたくてコンペへの参加に全力を尽くすが…。
終始酷い男の男鹿は異星人みたいに普通の人間には理解できないような感覚の持ち主とでもいうのでしょうか。
この男鹿を理解できるかどうかで、このお話をおもしろいと思えるかどうか違ってきそうな微妙な線ですが、まあ男鹿はさておき、そういう異星人のような、何を言っても自分のことをわかってもらえないような男鹿を嫌いになれればいいのに、好きな気持ちから逃れられないというか、もう呪縛のように男鹿に取り付かれて切り離せないで辛い思いばかりする雲居が本当に気の毒。
何度も男鹿に自分など相手にもされていないのだと傷つけられるところがとてもせつないです。
その分というか、雲居のお兄さんのようでもある元彼の優しい北沢さんは本当にいい人。
最初は優柔不断な嫌な人かと思ったけれど、北沢さんなりに雲居を愛していたようだし、読んでいて北沢は絶対そんなことしなさそうに見えた、男鹿に妬ける…と言って茶目っ気を見せるところ。
その直後の雲居の見せる涙とのギャップがすごく印象的でせつなさ倍増でした。
最後まで読んでみてやっぱり男鹿を好きになれるキャラかどうか自分の中でも微妙な感じはするものの、異星人は異星人なりに雲居という存在を欲しているあたりは伝わってきたし、北沢さんはいいお兄さん的存在だったし、仕事の、男鹿の会社の店舗の内装を手がけるコンペのお話としても興味深く楽しめたし、プラスマイナス考えて少しプラス寄りかな、という感じ。
手放しでよかった、と思えるお話ではなかったけれど、でも対等な男相手しか欲しない男鹿を手に入れるために、雲居も随分悩んで振り回されながらも、ずっと対等で、男鹿が追いかけてくるような自分でいようと決める前向きな感じのお話がお好きな方にはオススメかも。
また火崎さんのあとがきはよくその後のキャラたちに触れていますが、今回のあとがきは特に突っ込んでその後の二人に触れているので、そのあたりもまた楽しめるかも。