火崎 勇/心のカンヅメ


 

ビブロスビーボーイノベルズ 1999.11.20 里中守 

 

★4.5<モテる従兄弟に女の子の影を知ってしまう歩未が、もう好きだと想っていてはいけないのだと、気持ちを「心のカンヅメ」に封印する、というくだりから、すっかりハマってしまった私。

なかなか人に悪く思われたりするのが怖くて、作り笑いばかりしてしまう歩未の、クラスメートとのやりとりでの複雑な胸中。
そんな不器用で臆病な歩未のことを、言葉に出さなくても思いやって、だからって言葉で優しいのではなく、言葉はぶっきらぼうだったり、キツかったりするのに、態度がとっても優しい秋良というキャラに読み手である私も惹かれていく中、何故か秋良が歩未を避けてしまうところから歩未は混乱をきたす。

何が悪かったのだろうか、どこを治せばいいのだろうか、どうすれば秋良はまた、自分に向かって優しくしてくれるのだろうか。
少しグズグズと悩み過ぎる気もするけど、まだ恋という感情が具体的にどういう感情かもわからない歩未が、「好き」という感情についていろいろ考えるところは、本当に初恋らしい感じがするし、秋良に冷たくされた歩未が秋良と前のように戻りたいと願うところ
・・・P.72から引用・・・
それがどんな『好き』でもいい、単に従兄弟だからとか、クラスメートだからとか、幼なじみだからとか、そんなものでも構わないから秋良の『好き』の欠片(かけら)が欲しい。

・・・そんな歩未の、とにかく秋良に振り向いて欲しいと思う健気なところもせつなかった。

というのが、2部作の前半の話し。
2人の恋が成就してからのことが後半に出てくるのですが、前半の段階で深く恋人としてお互いを確かめ合うところまでいってしまってる(笑)ということもあってか、後半の恋人になってからの2人のその後、という話よりも
前半の少し短いお話の方が私的にはよかった。

後半はちょっと歩未はそこまで悩まなくても、というぐらいグルグル回っていてホントに「気にしい」なところがよく出ているので、不器用な2人が良くもあるのですが、ちょっとあんまりぐずぐず悩むのがニガテな人にはオススメできない感じ。(笑)

前半の長さぐらいの方が歩未のグルグルも読んでいてもそんなにしんどくないと思うし、何よりあの短さの中に、せつなさ、不器用さ、健気さ、痛み、悲しみ、そして甘々、という私のボーイズラブ小説に求めるすべてのものが凝縮されているという感じ。