火崎勇/ムーン・ガーデン

北条知也は若手の建築プロデューサー。初の大仕事で、ファッションビルの建築を手がけることに!知也が設計を依頼したのは、新進気鋭の建築家・忍足(おしだり)拓馬。昔から憧れていた人だったのに、初めて会った忍足は無口で不機嫌。しぶる忍足を説得するため、知也は熱心に足を運ぶようになる。ところがある日、仕事を引き受ける報酬として、忍足にカラダを求められてしまい!?


 

キャラ文庫 2000.8 須賀邦彦

 

★5<あらすじだけ読むと、仕事を受けることと引き換えにカラダを要求してくる忍足がキチクチック?な人間のようにも、安っぽいえっち小説のようにも見えますが、実際は、知也が本当にその仕事ぶりを尊敬し、崇拝していることがひしひしと伝わってきていたので、多少無愛想な人間には見えるものの、忍足に含みのある意地悪さは感じないし、二人ともが素敵な仕事ぶりを見せながらしっかり恋愛面部分も並行しているお話しであり、別にえっちくさい話しでもありません。

何かを作る人になりたい、という気持ちから、大学では映画を作る方に進むが、映画を作る上で必要になる、いろいろな感性のにために飲みにつきあったり、友人のまた知り合いに積極的に会ったり、とバイタリティを感じさせる主人公に、最初は知也の方が(攻)キャラなのかと思えたのだが、途中で忍足にカラダを求められ、(受)キャラだったことに気付き、少し驚いたが、意外とすんなり(受)キャラであることを受け入れて読めた。

その後、知也の仕事に対しても忍足に対してもまっすぐな気持ちにも好感が持てたし、忍足の、本当に仕事が出来る男ぶりにも、ラストでカッコイイ啖呵?を切るところにも、とてもかっこよく思えたし、とても満足のいく作品だった。

何より一番好きだったのは、二人が思いを伝え合うシーン。
もともと火崎さんの小説の、会話と会話の合間にキャラの思考の動きが上手に垣間見えるのは好きでしたが、今回の間合いは本当に絶妙でした。

だいたいどの物語においても山場になる「好き」という気持ちを言葉にするシーンですが、なかなかテレビで見かけるドラマのように、微妙な間合いを言葉で綴られている作品に出会うことが少ないといつも感じていました。
好き、という言葉の後に、あまりに安直に思いを通じ合わせてしまう、すごくいいシーンのはずなのに、残念な気持ちばかりが残る作品が多いです。
ですが、この火崎さんの作品では、テレビドラマで見るような、好き、という言葉が音になって二人の間に流れる空気を振るわせたときの、まるで一瞬周りの喧騒が遠のいたかのような、二人だけの微妙な空気をしっかり感じさせてくれる素敵なシーンに書かれていました。<別に実際のシーンは雑踏の中での出来事でもないので、最初から静かな場所のようでしたが、まあそういうような意味であることをお含みください。(笑)

泣きたいようなせつないお話しではありませんが、どちらもが仕事に前向きなところがとても気持ちよく、かなり仕事に関する話題がメインなのに、ちゃんと恋愛モノとしても満足出来る素敵な作品だと思えました。
ということで私の好き度は★5