火崎勇/夕闇をふたり

リーフノベルズ: 2005.11 ISBN : 4-434-06834-2

・あらすじ・

「俺に抱かれたいんだろう?」恋人になって5年、強引で身勝手、けれど自分にない強さを持つ男・長尾を深く愛し続ける近石。しかし、冷たい態度の長尾にもう愛されていないのかも、と自信を無くしかけていた。そんなある日、会社の後輩・遠野の恋人が男と知る。同じ境遇ながらも、愛しあっている二人に近石の心は乱れていく。ー自分は本当に愛されているのか、と。不安を押し隠す近石だったが、突然、長尾から別れを告げられて…。傍若無人の俺様×一途な出版社営業の執着愛。


 

・レビュー・

★5<「俺が長尾の恋人なら、気が狂うほど愛して」


始めから互いに

もっと話しをしていれば

こんなにこじれなかったのに、

という言葉の足らない二人のもどかしいお話。


高校時代、誰に対しても優しいというわけではないけれど、

そこには建前がなく、

 

強引なところはあったけれど

友人は多く、

リーダー的存在だった長尾と、

 

全く正反対で

あまり口も上手くなく、

一人でいることのほうが多かったような近石。


ひょんなことから接点を持ち、

いつしか恋人のようにつきあうようになった二人。


社会人になった今も続くその関係は、

多分恋人なのだろうとは思いつつ、

 

せわしげに仕事に行ってしまう長尾に寂しさを覚え、

これでも恋人なのだろうかと不安に思うようになる。


けれど、長尾を愛しすぎるあまり、

負担に思われ、捨てられることを恐れる近石は、

そんな胸の内を打ち明けることなく、

 

ただ長尾に笑顔を向け、

長尾の言うがままを全て受け入れていた。


そんなある時、

近石の後輩とのことを長尾に誤解されてしまう。

 

よく言えば謙虚だけれど、

悪く言えば自虐的な感じの近石を

もしかしたら苦手に思ってしまう人がいるかな?

という部分は気になるけれど、

 

強引で怒ってばかりのような長尾が、

それまで隠していた気持ちを白状してからは、

不機嫌だった理由なんかが見えてきて、

その不器用さがものすごく可愛くて微笑ましかったです。


それに加え、やっと長尾の真意がわかったとは言うものの、

まだまだ自分がどれだけ愛されているか、

自分からの愛情をどれだけ長尾が欲しがっているのか、

自覚の足りなかった近石が、

 

「もっと喋れ」と長尾に言われ、

なかなかその真意に気付かず長尾を怒鳴らせる展開は微笑ましく、

反面、「長尾、わかりにくいよ」

とツッコミを入れたりして楽しかったです。


もうちょっと最初から

長尾の苦悩がよく見えていたほうが

よかったかなという感じはしたものの、

 

個人的には同じ気持ちを抱えながら

ああでもないこうでもないと

遠回りしてしまう二人のお話は

めちゃくちゃストライクゾーンど真ん中で、

ラストのほんわかと温かい雰囲気もすごくよかったです。