木原音瀬/深呼吸

谷地健司は20年近く勤めていた外資系の会社をリストラされてしまい、40歳を過ぎて弁当屋でアルバイトを始めた。リストラのショックが癒え、穏やかに過ごしていた彼の前に突然、榛野が現れる。榛野はアメリカの大学院を卒業したエリートで、谷地に冷酷に解雇を言い渡した年下の上司だった。無能と宣告されたような気持ちを思い出すので二度と会いたくないと願っても、彼は毎週末やってきては弁当を買って話しかけてくる。その真意は…。 

 


 

あじみね 朔生】【ビーボーイノベルズ】【2011年11月刊】

 

★4.5<前半は四十路でリストラされ、弁当屋でアルバイト生活をしている谷地視点。
合理的で何事も白黒はっきりしていておよそ情には無縁そうな年下の元上司。
そんな榛野が毎週のように弁当を買いにくる。
リストラされた身としては気まずいし困っていたが読書好きな谷地の本をきっかけに榛野は谷地の家に上がりこむまでに。

いつまでも谷地にとっては榛野が近づいてくる意図がわからずにいながら、それでも毎週末のようにやってくる榛野と過ごす時間は悪くないとは思っている。
けれど榛野にしてみれば谷地には自分の気持ちのかけらも気づいてもらえずどうしようもなく煮詰まっていくところがせつない。

後半は気持ちを告げた谷地に、困惑しながらも突き放されなかった榛野視点。
ヘッドハンティングでイギリス在住となった榛野と、ケータイもパソコンもしない谷地は電話とエアメールで近況を知らせ合うだけ。
好きで好きでたまらなくて、表面上は素知らぬ素振りをしてみても虚しい期待が止められない。
つれない谷地に滑稽なほどグルグルと一人身を焦がす不器用な榛野がすごくせつなくて、でも可愛かった。

ただラストはどうなのかな。
上手にオチているといえばそうなのかもしれないけれど、ちょっとせつないし、やっぱり陳腐でももっと甘い余韻の終わりがよかったかな。