木原音瀬/眠る兎

冗談のつもりで書いた一通の手紙。その手紙に返事がきた事をきっかけに、高校生の里見浩一は年上の男と付き合うことになってしまった。本当の年齢も職業も隠し、そして相手の嘘にも気づかない振りでーー。嘘で固めた付き合いを続けるふたりは、それでも不思議と惹かれあっていく。しかし、たくさんの「嘘」がお互いにばれてしまい……!? 


 

ビーボーイノベルズ 2002/9  ISBN:4835213688

 

★5<ちょっと痛々しい話し、アンハッピーエンド、というイメージのある著者さんでしたが、今回久しぶりに読ませていただいて、見事にアタリ!!
読んでよかったーと思える作品でした。

男同士の恋愛なんて考えもしない高校生が、たまたま見たホモ雑誌に掲載されていた、出会いを求めて手紙募集をしている男にふざけて手紙を出し、思いがけず返事がきてしまうところから始まる物語。
会うつもりなんてないのに、来ない自分を待っている姿を見て、つい同情して名乗り出てしまう高校生は、いつしか大人で優しくて穏やかで、人一倍臆病な相手の男にハマってしまう。

前半の、罪悪感を覚えながらも、それを食いとめることが出来ず、それどころか、より一層罪悪感を増幅させてしまう主人公の行動が、とてもこの著者さんの作品らしく、読み手をとても複雑な気分にさせる。
そして後半は、突然の危機に、無我夢中に修復しようと躍起になる男と、慌てて逃げ出す男。
いつのまにか互いに、思いがけないほど強く愛し合っていたのだ、という甘さも描かれハッピーエンド。

どんでん返しでアンハッピーエンドなどにならずによかったー、とは思ったけれど、ちょっと物足りないラストかな、と読み終えたところに、今度は臆病な年上の恋人視点での8年後のミニストーリー付き。
最初は臆病で優しい男と、その気もないのにズルズルと付き合っては、真剣な相手に対し、最低な男だった高校生が、もう、なんていい男になったんだ!!(笑)、と感動するぐらいいい男になっていて、大満足して読み終えることが出来た。

おまけに作品のタイトルについても、ストーリーを読んでしまえば、愛しているのにうまく伝わらないもどかしさの感じられる、とてもせつない思いの込められた言葉であることがわかり、そのタイトルを振りかえるだけでも、作品を読んだ時のせつなさが思い出される、素敵なタイトルだと思えた。