秀 香穂里/大人同士

「作家にいい顔するだけの編集なんて無能だ」優秀だけれど廃刊寸前の文芸誌で燻(くすぶ)る編集者の小林(こばやし)に、毎日喧嘩を売ってくるのは同期の時田(ときた)。分析能力に優れた営業部のホープは、実は小林と同じゲイ。ある夜「外回りで疲れた俺に肩くらい貸せ」と挑発され、つい勢いで抱いてしまい!? 犬猿の仲の二人が恋に落ち、やがて週刊誌の黄金時代を築いていく ──「他人同士」待望のスピンオフ登場!!

 


 

isbn:4199006540 新藤まゆり

 

★5<「他人同士」のスピンオフ作、ということながら本編がウロ覚えなので、新鮮な感じで出版社に勤務する二人が、仕事も恋愛も同期らしくぶつかり合ったりわかり合ったりするさまを楽しめました。

本編での小林と時田が44歳、なのかな、今回のお話は二人が28歳。
まだウインドウズ95でパソコンが普及し始めた頃、という設定に今とのギャップをちょっと感じる中、営業と編集、という同じ本を世に出す仕事に携わりながら時として対立し合ったりする立場でもある二人が、時に言い合いながら…というか、はっきり物を言う時田がギャンギャン小林に言いながら、小林は多少言い返しつつも大概穏便に受け流している、という感じ?(苦笑)

そんな時田の「ギャンギャン」を小林が最初から内心可愛く思っていた、とかではなく、それがただ時田の八つ当たり的なものではなく、編集ではない立場から見えるもどかしさがあってのことだと言う部分や、営業として真摯に本を売ろうとしてくれている姿や、その的確な読みで売上を伸ばす仕事ぶりを理解していくうちにいい刺激を受けて、またプライベートで自分を大事にしない時田を見ているうちに大事に愛してあげたくなる。

このお話のいいところは出版業界のお仕事のお話としても楽しめつつ、もちろん恋愛面での二人も楽しめるのだけれど、その恋愛部分であれだけ普段言いたい放題の時田が、小林と抱き合っても素直にならないのかなぁと思ったら意外とそうでもなく、小林も時田の八つ当たりをいつもうまく受け流すようなところがあるので、もっと二人でいるときも言葉足らずな感じかなぁと思ったけど、時田への気持ちはストレートすぎるぐらい言葉にするから、二人の時間が思っていたより甘ったるかったのは想定外ですごくよかった。

最後は44歳の二人と諒一、暁の四人でのやりとりも少しあったりして本編を読んでから読むと2倍美味しい感じ。
そして若かりし小林と時田を読んだ後に本編を読み返すと、またチラリと出てくる上司の二人を見る目も違って楽しめそう!