牧山 とも/静寂に愛は

三年前、ある事件によって両親を一度に喪い、心に深い傷を負ってしまった海聖は、姉の親友である青年実業家の藍原に保護されていた。傷ついた海聖の心を時間をかけて見守り、保護し、慈しんでくれた藍原に、海聖は次第に惹かれていく。しかし、事件で負ったトラウマが恋心への恐怖心と嫌悪感を呼び起こし、ただ想うだけの日々が続いていた。そんなある日、ふとしたきっかけで海聖は藍原に抱かれてしまい…。

 

【Asino】【B‐PRINCE文庫】【2011年5月刊】isbn:4048703978


 

 

★4.5(-)<両親を突然失ったこともさながら、その後に知らされた事実、投げつけられた感情によって、海聖は対人恐怖症に陥り学校にも行けなくなってしまう。
そんな海聖の面倒を何くれとなくみてくれたのは、姉の親友であり青年実業家の藍原。
その過ぎるほどの献身的な態度に、少しずつ少しずつ海聖の気持ちはほぐれ、いつしか恋愛感情をも自覚するようになるが、返しきれないほどの恩ある相手に対し、その感情は押し隠すしかなく…。

自分の中に、恋しい気持ちが狂気じみた行動を引き起こしてしまうような、恐ろしい血が流れているのだと怯える海聖はせつなく、途中から藍原視点でもストーリーが展開していく中、互いに気持ちは同じなのに遠慮し合っているところがもどかしく、でも安心して読むことも出来る。

特に藍原のまぬけぶり、と言ってしまうと身も蓋もないけれど、ヘンなとこ真面目でヘンなとこ正直なところは憎めなくて、ヘンなこだわりをもって海聖のことを大事にしていたあたりがおかしい…というか、こだわり自体は年の差ものにありがちなものながら、それを破った時の藍原の反応がなんだかあまり年の差らしい理性的なものではなかったあたりが個人的に意外でツボでした。(笑)

学校に行けないぐらいの対人恐怖症なのに、藍原の会社の事務や、老人が一人でやっているようなあまり客の出入りの激しくない珈琲店とかならまだしも、そこそこ人気のカフェのバイトなんて出来たのか…?という疑問や、藍原がそこまで海聖の面倒をみるのは無理がないかとか、前半の海聖の対人恐怖症に至るあたりの経緯が全体のバランスからはちょっと濃過ぎる感じもしたり、いろいろツッコミたい部分はあるけれど、キャラが悪くなかったので読後感は悪くなかったです。