海野 幸/理系の恋文教室

容姿端麗・成績優秀。学内のあらゆる研究室から引く手あまたの伊瀬君が、なんの間違いか我が春井研究室、別名・落ちこぼれの避難所にやってきた。おかげで雑用にもたつく私は伊瀬君に叱り飛ばされ、怯える日々を過ごしている。しかしある日、彼が恋文を書いているのを偶然知ってしまった私は、その奇抜な文章につい突っ込みを入れてしまったのだ。怖いはずの伊瀬君の初めて見た真剣な顔…。「教えてください、春井先生」そう言われた私は、うっかり頷いてしまい―。 

 


 

【草間さか】【二見書房 シャレード文庫】【2011年11月刊】isbn:4576111558

 

★5<これ、おじさんスキーさんにはたまらないのではないでしょうか。
特におじさんスキーでもない私でもたまりませんでした。
やっぱり海野さん、いいです。好きです。本当によかったです!

48才の理系大学で「落ちこぼれの避難所」と呼ばれる春井の研究室。
なのに入学当初から優秀でどの研究室からも引く手あまたの伊瀬が選んだのは春井の研究室。
春井を尊敬して、というなら春井も納得だが、顔を合わせれば耳に痛いことばかり言われ、春井は伊瀬を苦手に思っていた。
けれど丹精な顔立ちの伊瀬は本当に優秀で要領の悪い春井へのお小言はどれも正論。
正直頼りきり。
情けなさを感じていたが、あるときうっかり読んでしまった伊瀬の書きかけのラブレターを添削指導することになって…!?

理系男らしい奇妙なラブレターを書く伊瀬は本当にいつも苛々しているわけだれど、多分春井を好きなのだろうなと思えるから、まったく無自覚な春井を前にしてみれば伊瀬の言動も納得?
なかなか報われない男に完璧な男が苛立ちながらも些細なことに笑みを見せたりするあたり、年相応な可愛い人だったりもしました。

春井は本当に専門分野以外での能力はかなりあやしい冴えない感じのおじさんですが、怖い伊瀬をだんだん可愛いと思っていく中、好きだという気持ちを自覚したと同時に絶望感を味わうあたりはすごくせつなく、気持ちが通じ合ってからは、春井の気持ちを尊重したい、と譲歩する伊瀬に許可を出す出し方がすごく絶妙な言い回しで、ヘンに誘いすぎず丸投げしすぎない?ところがすごくよかったです。

最後も、前半の波風が立つのが苦手そうな、気弱な風の春井が伊瀬の感情に流されちゃったな、的な終わりではなくて、春井も伊瀬と積極的に幸せになろうという気持ちがちゃんと描かれていたのもよかったです。

理系のプログラミングという小難しい理論の話に恋文という古風なアイテム、若くて超優秀な生徒に冴えない感じの中年男。
強引そうで臆病さも持っていたり、冷めているようにみえて熱い思いを向けていた男。
あれだけ終始慌てふためいておいて、年長者らしくもっと未来には臆病かと思いきや、意外に肝が据わっている男。
いろいろなギャップがうまく交錯して描かれていたと思うし、伊瀬は終始頼もしいながらも強引に出来れない可愛い若さもあって、でもその部分は意外に覚悟の決まった春井が絶妙にフォローできそうで、幸せそうな二人の未来が見えるような素敵なお話でした。