火崎勇/夢の通ひ路

コバルト文庫: 2004年 04月 沢路きえ ISBN:4086004062

・あらすじ・

俺、新川昴は不幸つづきだ。実家は借金まみれ、会社は倒産、なけなしの退職金を持ち逃げされ、アパートからは自殺者が出る。あげく、バイト生活で落ち着けたと思った矢先、ストーカー男につきまとわれる。今はただ、何も考えずに眠りにつくときだけが幸せ……。なのに、ある日、気付いたら、そのストーカー男の部屋で目覚めるなんて―――!? 夢のように心誘う、淡くせつないボーイズ・ラブ。

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・レビュー・

★4.5<とんでもなく不幸続きの新川は、

せっかく大学を卒業し、就職した大手家電メーカーが倒産したことから、

今は大学時代によく利用していた喫茶店のマスターの好意で

アルバイトをさせてもらう日々。


辛くないわけはないけれど、

前向きに頑張ろうとする新川の前にストーカーらしい男が現れる。


気味悪く思っているうち、

今度は喫茶店のほうにも顔を出すようになるが、

相手から声をかけられるでもなく、

新川が恐れていたようなストーカーではなかったのかと思っていた矢先、

再び新川が混乱してしまうような出来事が起きてしまう。

 

今回はちょっと普通の物語にも思えるけれど、

所々が謎めいていて、

最後、そうだったんだ!?と驚きと

ちょっとせつないオチになっている興味深いお話。


主人公の新川は本当に不幸続きで、

寝ている間なら何も考えなくて済むからいつまでも眠っていたい、

とまで言うほどの健気さの持ち主。


そんな気の毒な新川に近づいてくる男・小野寺が、

口下手ながらいい人そうに見えるのに、

ちょっとミステリアスなところがあって、

新川を本当に大事に思って優しくしてくれているのかどうか

読んでいて気になってしまう。

 

弱っている新川に差し伸べる無骨な優しい手。
新川自身もその優しさに特別を感じてしまいそうになる中、

そんなに小野寺に甘えきっていいはずがないことにも気づいて、

せつなく胸を痛めてしまう。


それまでは寝ている間だけ現実から逃避することが出来て、

夢の中なら優しく誰かに慰めてもらうことも出来たのに、

 

夢の中の誰かを小野寺だと思うようになってからは、

その夢の中の腕が優しければ優しいほど

起きた時の虚しさが大きくなるところがまたせつない。


新川には小野寺にたっぷり甘えて、

本当に幸せになってほしいな、と思える作品だった。

 

ちなみに好き度が満点にならなかったのは、

ミステリアスで意外なオチのついた話よりは同著者さんの

「きっとそれも恋のせい」のような

普通の日常の中でのせつない恋愛モノが好きだということから。


ヘンなこだわりがなければ意外なオチでおもしろく読めると思う。