いつき 朔夜/征服者は貴公子に跪く

両親、そして財産を失い、先祖代々の居城を手放すことになったパウル。ところが、契約書にサインを済ませたとき、売却先である日本のホテルチェーンから来た牟田は、かすかな笑みを浮かべて告げたのだ。「あなたも込みで買ったのですよ」と。男の傲岸さに最初は反発を覚えたものの、無表情ながら冷血漢ではない牟田と徐々に心の距離が近づいてゆき…。

 

新書館ディアプラス文庫】2009/7 金 ひかる isbn:4403522181


★4.5<15歳の時両親を飛行機事故で亡くし、後見人となった叔父に借金を背負わされ、代々受け継いだ城を手放すことになったドイツのゴルトホルン城・城主パウル・フォン・ヒルシュヴァルト侯爵。
買い上げたのはホテルチェーン後継者の牟田槇一郎(シン)。
城を出た後の自分の身の振り方を案じていたパウルだったが、古城ホテルの品位を損なわないよう本物の貴族であるパウルに「城主役」をさせることでパウルは城にとどまれることに。
牟田の物言いは冷淡で意地が悪かったが、共にホテルの準備で場内で暮らすうち、牟田の、淡々とビジネスライクなようでいて、パウルの意見にもきちんと耳を傾け、意思を尊重してくれる姿勢に、いつしか神にそむく禁忌な思いを抱いていく。

貴族のパウルは根っからの城主様でありながらプライドは高過ぎず、世間知らず過ぎない。
自分の置かれた状況を冷静に受け止めることのできる潔い人。
異国情緒あふれる森やお城、貴族様という舞台がしっかり生かされたお話になっていて、マイナス印象だった牟田の株がどんどん上がっていく展開もいい。
ただ一読目は全体的におとなしめというか、地味なような印象がしたので、もうちょっとパウルが、プライドが高くて素直になれない性質だったりするとお話全体のトーンもアップダウンが激しく印象も違ったのかなぁと思いましたが、でも読み返すとじんわりいいなぁと思えてきたので好き度は最初の印象の★4(+)と迷って★4.5に繰り上げ。